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『おーい式村ぁー』
学校の廊下を歩いていると、後から私を呼ぶ声が聞こえた。 割と昔から聞く声で今もよく聞いている担任の声、その呼び声に振り返り口を開く。
彩「ん、何? 醍にーさん」
「学校では先生と呼べっての、ってかお前また飴舐めながら歩き回ってンのかよ」
彩「あー、ごめんうっかり。 えーと、式村先生」
そう言い直すと目の前の担任の男性、式村醍は軽く溜息をつきながら
「良し」
とりあえず納得した。
担任の男―― 式村 醍(しきむら だい)。 4年程前に「偽島」とか「嘘島」とか言われる世間にも歴史上にも知られていない場所へ行き 約束の下にキッチリ帰ってきたらしい、やり過ぎない程度のガチムキ男。 その後何故か問題児が集まりやすい変な養成学校に赴任し、 25%の教鞭と35%の肉体言語と40%の御礼参りなど各種報復の返り討ちで日々を送る28歳児。
それと相対する黒髪の少女―― 式村 彩(しきむら さい)。 醍の従姉妹にあたる、9歳年下な19歳のワケ在り現役女子高生。 (ワケと言っても入院とか色々で留年重ねてるだけではあるが) 左側の一部だけ伸びた髪と、そこに留めているヘアピンがトレードマーク。
彩「で、何か用件があったんじゃ…」
醍「あァ、そうだった」
そんな少女の割と日常っぽい生活は――
醍「お前、今年もヤバいぞ」
彩「……え?」
――いきなり修羅場モードへと突入した。
第一日目 『始まり、そして再開。』
醍「…とまァ、そういう訳で校長が認可した最大限の譲歩がコレだ」
そう言いながら、醍は胸ポケットから中身の入ってそうな封筒をピッと取り出した。 表書きには「招待状 式村醍 殿」とだけ書かれてあり、差出人等の明記は一切ない。
彩「これは?」
醍「見ての通り招待状だ、ある場所へのな。 で、そこへ行ってちゃんと頑張ってくれば、校長も不足単位分を認めてやるってよ」
彩「ふうん…まあそれは別にいいんだけど、 醍にーさん宛てって事は前に少し話してくれた不思議な場所、かな?」
醍「さァな、同じかも知れねェし違うかもしれねェ、だがニオイは似てるぜ。 行って損はしない、それだけは確かだ」
彩「……ま…いっか。 卒業とかはどうでもいいんだけど、 あんまりブラついてるとまた追い掛けられたり何か言われちゃいそうだし」
醍「よし、決まりだな? ンじゃあ許可も出てっから、帰って2日で準備しておけ。 最低限でも構わん、サバイバル授業の簡易式を想像すりゃ十分かもな」
彩「んー」
何か話に流されたような気がする… そんな事を胸に秘めつつ、真昼間の学校を後にした。 うっかり口に出したらゲンコツ飛んできそうだし。
+~・~・~・~+
そして約束の2日後、船着場での集合&見送りという事で 本人である彩、その担任である醍、更にその妹である圭の3人が集まっていた。
彩「じゃあ、行って来ます?」
圭「ん、いってらっしゃい。 多分色々あると思うけど、何事も経験、ね?」
似合わないなぁ、といった顔の彩に対し圭は半分クスクス笑いながら応える。 そんな二人の横で醍は少し考え事をしているかのようなしかめっ面をしていた。
彩「醍にーさん、どうかしたの」
醍「お前さ、何か武器って持ってきたか? つーか考えてたか?」
彩「武器」
圭「うん、武器…」
彩「ぶき…」
醍「忘れてやがったか、はァ… しょーがねェ、現地で上手く見つけてこい」
醍はしかめっ面のまま額を押さえる、まさか何も用意していなかった等と誰が想像しようか。 思わず諦め気味のトーンで指示を出す。 だが、当の彩は船着場の周りをキョロキョロと見回している。 そして何かを見つけたのか、一目散に駆けて行き――
カラカラカラカラ……
――何かを引きずってきた。
醍「…ちょ、お前、ソレ…何だ?」
彩「え、何って、えーっと… 鉄パイプ。 一番使い慣れてるし」
醍「…………」
圭「……に、兄さん…」
醍「………まァ良い。 さっさと行けッ!!」
げしっ
大きな転がる音と共に彩が船へと入る。 そしてそこに「お餞別ーっ」という圭の声と共に、大きなバッグに入った何かが放り込まれた。
暫くの間汽笛を鳴らし続け、次第に船は水平線へと消えていった。
彩「いったいなぁ、もう」
ぶーたれながらもしっかりと受身を取りバッグもキャッチしていた彩は、 手近な椅子を陣取りのんびりと船旅を満喫していた。
彩「そういえば中身なんだろ…」
バッグの口を開けると、そこには「旅のしおり」なる物が入っていた。 サバイバルでの基礎知識や簡単な情報、戦闘時の心構えと基本…… そして、以前醍に縁のあった人の名前と顔と特徴がメモされていた。
"縁があれば頼っても良い、頼られても良い、選択も結果も全てお前の自由"
まるでそう言っているかの様だ。
彩「一応…覚えておこ。 んー…、あ 」
一通り目を通しバッグの中身に視線を戻した彩は、タオルを乗せられていた下にある バッグの大部分を占める内容物に気付き、
全身から幸せオーラを放っていた。
醍「ところでよ、アレの中身は何なんだ?」
圭「甘いお菓子いっぱい」
醍「はあ?!」
圭「さーちゃんは少なくともあれがあれば元気になれるし、ね」
醍「…大丈夫かアイツ、色んな意味で」
駄目かもしれんね。 醍はこっそりと心の中でそう思った。
醍達のいる街から遠く離れた何処か――通称、偽島。
(ぴくっ…)
ガバッ!
近付いてくる「何か」に反応して、赤い髪と瞳の少女が跳ね起きる。
「…来た、かな?」
少女の物語もまた、再び動き始めた。