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ひとつ、つまらないお話でも致しましょう。
「精神や魂というものは『世界』という鳥籠によって安息の時を刻む」
――そう考えられなくもない、という一つの事柄。
第四日目 『早い話が迷走』
ある所に、2人の少女が居ました。
その内の1人が、ある瞬間を境に忽然と存在を消してしまった。 「姿を消した」のではなく、 「死や喪失」という概念ともまた遠く、 「存在を消失」してしまったのだ。 そこに残されているのは、文字通り残りのもう1人。
残されたもう1人はただ我武者羅に手掛かりを探し求め、走り始める。 ひたすらに、思いのままに。 いつしかその足は数多の世界をも飛び越え、駆け抜ける様になった。 それはまさに世界の枠を突破した、と言える事でしょう。
しかし、そこでそのまま流してはならない事象がまだ存在します。 それはこの世界には区分とも言える「限り」が必ずある、という事。 そして隣り合う異世界が無数にあるとは言えども、互いを行き来するには何らかの法則も然り。 例えるならば界門・トンネル・扉などといった構造物を用いた境界回廊、 転送・時空魔法や魔力の歪みを用いて双方を繋ぐ空間連鎖、 超越技術・ロストテクノロジーを用いて世界そのものに綻びを作り通り抜ける穿界プログラム、 そういった法則というものもまた、存在している。
この事象と先の少女の事例と何が違うのか? そう疑問に思う人は少なからず居るだろう。
この事象の場合……再び例え話になってしまうが、 「鳥籠の扉を開けて外へ出る」と言えば意図は伝わりやすいだろうか。 重要なのは扉を開けるという法則。 法則を用いて外へ出、内へ戻ればそこには依然として安息の住処が存在したままだ。
そして先の少女の場合は、言ってしまえば 「鳥籠を破砕して飛び立ってしまった」という状況に近い。 それは自身を囲い固め繋ぎ止めていた世界の破砕に等しく、存在因果の崩壊にも等しい。
無くなった安息の地へは、二度と戻る事は出来ない。
幸か不幸か、その少女は自身の存在が霧散する結果に至る事はありませんでした。 しかし少女を構成するいくつかの事象・因果律は狂い壊れる事となった。
最も大きな物として挙げるならば、それは『時間』と呼ばれるモノ。
少女の身体が刻んでいた時間は、世界によって刻まれていた時間。 だがその世界は既に少女と繋がれていない。 身体が刻む時間が歪んだとしても、直る事がない、故に歪み、歪み、歪み続ける。
その少女の『時間』は、酷く鈍く、遅く刻むようになった。 遅き時の刻み…即ち周囲の世界で一年が過ぎようとも、 少女の身体はそれよりも遅く遅く殊更に遅く時節が経過する事となる。
十年、百年、数百年経とうとも生き続けさせられる定め…… それは、ある種の呪いのようにも見える。
>―――――<
??「――これでおしまいです、つまらないお話でしょう?」
??「(こくり)」
満月の昇る夜半、男の視界の端にいる人影が頷く様に動く。 男…眼帯をした赤衣の男が、窓から差し込む月明かりの中大きめな本を手にしたまま振り返る。 視線の先にはやや小柄な黒衣の女性……が、ソファーに腰掛けたまま寝息を立てていた。 その姿を見て思わずくすりと困ったような笑みを浮かべ、女性の肩と足に毛布を掛ける。
+小++小+??「むゃ……おやすみ、ハル…すー…」-小--小-
ハル「…おやすみなさい、クロア」
女性の寝言に一言だけ柔らかく返すと、赤衣の男は椅子へ座り資料の束へと目を落とした。 そして、独りごちる。
ハル「その少女が自身の呪いを自覚している事もまた、幸か不幸か…さて」
とぅるるるるん とぅるるるるるん
ぴっ
醍「ヘイ、こちら式村ぁー」 (ザッ)
彩「ん、私」
醍「おう、どうだそっちは楽しいだろ? って、あぁそうだそっち今時間どの位だ」 (ゴッ)
彩「まあぼちぼち、少なくとも退屈にはしてられないかも。 時間は…夜、としか」
醍「やっぱちょっとは時差あるみてェだな、こっちはまだ放課後になったばっかだ。 …ま、声聞く限りじゃ特に問題も無く悩みも無く、って所かね」 (こーん)
彩「正解、いつも通りゆっくりしてる」
醍「お前はホント何処でもマイペースだよなァ……ま、それでいいさ。 (ザザッ) 遺跡の中じゃ通じるかは分からねえが、何かあったらいつでも連絡寄越せ。 (どしゃッ) 対処考えてやんよ」
彩「うん、分かった。 ところでさっきから変な音が混じってる気がするんだけど」
醍「あぁ、ちょっと取り込み中でな」
「式村テメェ電話なんかしてンじゃねえシカトかコルァアーッ」
醍「 っせえ黙ってろボケおらァッ!! 」
ドズン…っ
醍「あーあー、ったくだらしねぇな最近の悪ガキってのはもう少しツッパれっての。 ま、大体想像つくと思うが定期恒例のアレだ」
彩「まあ、何となく。 防火壁頑張れー」
醍「おう、ンじゃそっちもな」
ぴっ…
携帯端末の通話をOFFにして顔を上げると、目の前に広がるのは満天の星空。 "普段は見えなかったけど、見える所だとこんなに見えるんだなぁ…" などと思ってみたところで、相談し忘れた事が1つあった事を思い出した。
彩「…魔王軍に入ったけどどうしたらいい、なんて流石に聞けないか」
質問が質問になるかならないか実に微妙、忘れてて良かったかも。 そういう事にして彩はメンバーのいる宿泊場に戻る事にした。