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わいわいわいがやがやがやざわざわざわざわ……
石と煉瓦と木材で建てられ彩られた、中世洋式とでも例えられそうな街並み。 その街の郊外に走る大通りは、実りを讃える収穫祭をあと数日と控えて多くの人々で賑わっていた。
とある大陸国に存在するこの街の名は、王都イシリア。
その王都の大通りを両の手で大事そうに大きな紙袋を抱えつつ、 買い物メモを見ながら獣人と思わしき少女が狐耳と尻尾を揺らしながら小走りに掛けている。 どこかの民族衣装の様ないでたちのその少女は一件の道具屋の前を通り過ぎた所で慌てて急ブレーキ、 踵を返し道具屋の扉を潜って入っていった。
少女「こんにちはー、シェオルさんおられますかー」
??「おう来たか、ちょっと待っててくれ、今行くからよー」
顔見知りなのか慣れた様子で呼ぶと、奥の方から店主と思わしき男の声が聞こえてくる。 待つ事十数秒、奥の扉を所々埃で汚した中年の痩せた男がゲホゲホと咽ながら出てきた。
シェオル「悪い悪い待たせたなセフィーア嬢ちゃん、また少し背ぇ伸びたか?」
セフィーア「流石に二十歳で成長はないかとー…」
男の軽い挨拶に、少女はひどく真面目に考え悩んで答えていた。
セフィーア「え、フェティさんまだ戻られてないんですか?」
シェオル「おう、そうなんだよあの馬鹿娘が……好きに歩き回って来いとは確かに言ったがなぁ」
セフィーア「かれこれ、えーと…何年位でしたっけ」
シェオル「ぼちぼち4年かね、とりあえず一回顔を出すって事ぐらいしろ、っての。 まァ、『便りが無いのは元気な証拠』とも言うし大丈夫なんだろうけどな」
セフィーア「でも流石にちょっと心配ですよねえ…」
シェオル「もし嬢ちゃんが遠出する機会があってその時遇ったら一発ガツンと言っといてくれねえか、 何だったら着払いでも構わないぞ」
セフィーア「ちゃ、ちゃく…っ?! え、えーと機会があったら探すだけ探してはみますね」
シェオル「宜しく頼むわ。
んで、あーっと…そういや何の用だったか聞いてたっけか」
セフィーア「……あ、忘れてました。 ハイポーションのセットをひーふーみー、と。 あと有りましたらお塩とパプリカと黒胡椒もー」
シェオル「ああそれだったら丁度今日入ったモンがあるぜ、相変わらず運が良いな。
ほら袋まとめておいたぜ、落とすんじゃあないぞ」
セフィーア「わ、わわっ 気をつけますっ!」
談笑を交えつつも買い物を思い出し、商品の受け取りと会計を済ませてぺこりと礼をした後 おっとっと、と少し危なげな歩調でセフィーアは背を向ける。
シェオル「おっとそうだ。」
そこへ思い出したようにシェオルが声を掛け、セフィーアが振り返る。
シェオル「そういや親父さんは元気にしてるかい? 最近こっちに来てないって話だが」
セフィーア「節々…というか脚が少し悪くなったかな、とこの前言っていましたけど元気ですよー。 もう年かな、とも言っていましたけれど」
屈託の無い笑顔でくすくすと思い出し笑いをながら、その娘が言った。
シェオル「年ってまだ三十路にもなってないだろ確か、あの人らしいっちゃらしいけどな。 んじゃ引き止めて悪かったな、暴漢とかに気をつけて帰れよ」
セフィーア「たまには寄るように話しておきますねー。 あと大丈夫です、私これでも神殿騎士ですからっ」
ぐっと力強く拳を握ったその少女は再びにこやかな笑顔をして大通りを駆けていった。 馴染みの客をカウンターから見送ると、男は煙草に火をつけて煙をフゥー…と吐き、ぽつりと呟く。
シェオル「ほんっと、何処で何してやがんだかな、あの馬鹿娘は」
――― これもまた、数年前の話。
第七日目 『誰かが言ってた。 話が"脱線"していいのは"本線"が出来てる場合だけだって』
で、その馬鹿娘が今はどうしてるかと言うと。
フェティ「ねぇ志井ー、少しヒマっぽくない?」
志井「(カサカサカサ)」
フェティ「やっぱりヒマだよねー…」
志井「(尾を振り上げ…ヒュンっ)」
とすっ
フェティ「 んああ゙な゙あ゙あ゙あああああーーーーっ??! 」
特に何も進展が無いので暇を持て余していた。 まあ彩と行動を共にしている時点で、そう簡単にアクティブ展開になる訳など無いのだが。 しかしそれすらも理解した上で暇を持て余しているかの様な余裕の気配が、フェティにはあった。
彩「そういえばフェティさんって誰かを探してこの島に来てたんだっけ、 前に醍にーさんに少し聞いただけだから詳しくは知らないけど」
勿論、彩と言えども流石に多少の疑問は感じている。 という事でこの暇を幸いに、と少し聞いてみようかと思った。 元より自分は人付き合いが器用じゃない事も考え、めっさストレートに。
そんな言葉を投げかけると、フェティは先程突付かれたらしい額を摩りながら振り返り、
フェティ「うん、とっても大事なヒトをね!」
にかっ と照れたような笑みを浮かべながら答えた。
彩「それじゃ早く探さないと、なんじゃないかな?」
フェティ「それが探そうにも手掛かりがプッツリだからね、焦ってもしょうがないのサー」
彩「ふうん……」
フェティ「まあ私には時間が幾らあっても足りないと同時に、有り余り過ぎる位あるんだけどね」
彩「?」
フェティ「ちょっとした訳アリでね、ある意味すっごい長生きになっちゃったんだよねえ。 多分サイがお婆ちゃんになってもあんまり姿変わってないかも。 ちょっと反則気分ー」
何やら重い話の様な気がするのだが、当の本人のフェティは にひひ、と笑いながら言っている。 その様はひどく無邪気でもありつつ、どこか、壊れかけた気配も漂わせていた。
フェティ=ラルグ ――― 壊れた世界と時間の少女。
ゆっくりと時を刻むのは彼女の「内側」、成長など細胞起因の事象。 故に身体の成長は極端に遅く、病の類も発生する前に消滅する。 純粋に「生存する」という観点では長命の確率が非常に高い状況となる。
しかし、メリットには必ずデメリットが付き纏うモノ。
細胞活動の遅延、即ち外傷治癒速度の極端なる低下。 尤も、軽症程度であれば治療や代謝促進術でカバーも出来るだろう。 だが重症となれば話は別。 高度な治療技術と極めて長期的な連続施術を要するだろう、というのも想像に難しくはない。
運動能力や思考神経系統等にまで遅延が及ばないのは、不幸中の幸いとも言えるだろう。 場合によってはそれすらも不幸へと繋がるのだが。
フェティ「運命ってさ、結構ヒドいモンだよねー」
たははは…と笑いながら、フェティは初めて少し困ったような顔をした。